五月の味
晴れた天気に誘われて散歩にでかける。連休に遠出はたくさんの人に混じってしまうから、行きつけの喫茶店に向かう。私の住んでいるところは都心の込み入った住宅地の中で、直角の少ない曲がり角がおおい複雑な網目模様の道を気ままに曲がりながら歩くと突然小さな商店街に出くわす、そんなところだった。まっすぐに向かってもつまらないので、曲がり角でいちいちとまって、目を引かれる植物のあるほうに曲がるようにして遠回りをしていると、ふと足音がするのに気がついた。
それは大人のそれではなく、小さな子供の柔らかいスニーカーの足音で、私の足音の半分のリズムを刻んでいるように思えた。しかも私が止まれば音も止み、私が道端の何かに目を向けて立ち止まるとちょっと先で音はまた止む。まるで小さな子がまとわりついているような気がした。
通りには人はいないので、それは私の空耳ということにしてようやく喫茶店の方に向かう小道に出ると、道路わきのつつじが満開に咲いていた。新緑の葉に濃いピンクのつつじがコントラストをなしている。一瞬、太陽に雲がかかって光量が減ると、色の対比はますます鮮やかになって私はめまいを覚えてまた立ち止まった。
ふ、と空気が動いてすぐ足元に、つつじの花が落ちているのを見つけた。さっきまではなかったのに。そっと拾い上げると、自分が小学生だった頃につつじの花の元を吸うと甘い蜜の味がすると同じように花を摘んだことを思い出した。
喫茶店は店内が満席だったので、テラスに座って珈琲を注文した。ここからでも、近くの家の塀の穴からはみ出たつつじの花が見えた。私は水を一口飲んでから、先ほどのつつじの花をコップに落とした。
「きれいに咲いてますね」
店長の女の人がそういいながら珈琲を持ってきた。
「いま、小さめのケーキは何かありますか」
「フルーツのタルトがありますよ」
「じゃあ、それを半分に切ってもらえますか」
店長はすぐに半分に切ったケーキを二つのお皿に分けて持ってきてくれた。
私は向かいの席に先ほどのコップとケーキを置いて、それからもうひとつのケーキを食べた。
食べ終わると、店内から数人の学生らしい集団が4人出てきて私の横を通った。
テーブルに目を戻すと、さきほどコップにいれたつつじとケーキはなくなっていた。
「もう、五月になるんですね」会計に行くと店長がいった。
「そうですね、もう…」
外を見ると向こうのつつじが揺れている。猫でもいるのか、それとも見えない五月だったのか。私はつつじの蜜の味の混じったような、青くて新鮮な五月の空気を吸って、また網の目の新緑の小道に一歩踏み出した。

by nodeq

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by luce_di_viola | 2012-04-30 04:41 | nodeq
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